奥歯にあたる6歳臼歯と12歳臼歯のさらに奥に生えてくる18歳臼歯のことを『親知らず』と呼びます。
親知らずは20歳前後に生えはじめ、この時期に歯茎の被ったところに細菌が溜まって歯茎が腫れたり、横や斜めに生えてくるトラブルが増えてきます。
キレイに親知らずが生えた場合は必ずしも抜歯する必要はありません。
ただし、将来的にトラブルを引き起こす可能性のある親知らずは、早めに抜歯しておくことで、問題の原因から取り除いておくことが大切です。
ここでは親知らず抜歯の手順や重要なポイントについてご説明いたします。
完全に埋まった親知らずを
抜歯するときはCT撮影をします
親知らずが埋まった状態で抜歯を行う際には、患者様の安全を確保するためにCT検査を実施します。
一般的なレントゲンでは、歯茎に埋まっている親知らずの大まかな位置は把握できますが、神経管との距離や、三次元的な位置関係は判明しません。
そのため、埋まっている親知らずを抜歯する際には、必ずCT検査を行っています。
骨に埋まっている親知らずの場合、CT検査は保険適用で実施することが可能です。
CT検査によって、親知らずの周囲にある血管や神経管、副鼻腔との正確な距離(1/100㎜単位)を測定できるため、抜歯を安全に行うことができます。
患者様に安心して治療を受けていただくことが可能です。
麻酔が効きにくい場合は
伝達麻酔を行う場合があります
「麻酔が効かないということはあるのでしょうか?」と質問を時々頂きますが、たしかに麻酔が効かないことはあります。
麻酔が効かない場合でも対処法があります。
歯科で扱われる麻酔の種類について説明します。
浸潤麻酔(しんじゅんますい)
これは、一般的に行われる麻酔で、施術する部位の近くに麻酔薬を直接注入し、浸潤させて麻酔効果を得ます。
この方法で99%の人には効果があるものの、ごく稀に全く効かない人がいます。
効かない場合は、ほとんどが下顎に関連しています。
下顎の骨は上顎に比べて緻密にできており、麻酔薬が浸潤しにくいことが原因とされています。
奥の歯になるればなるほどその傾向が強く、また年齢が上がるほど骨が固くなるため、高齢の方の下顎の親知らずは特に困難です。
伝達麻酔(でんたつますい)
伝達麻酔は、麻酔が効かない場合の対処法として用いられることがあります。
特に下顎の場合が多いため、下顎専用の方法です。
下顎の歯の神経は、一本の太い神経が担当しています。
この神経は、下顎の中を通り、それぞれの歯の神経を支配しています。
伝達麻酔では、この太い神経全体を麻酔させることを試みます。
この太い神経は、頬の内側あたりの下顎孔という穴から骨の内部に入り、下の前歯のあたりにあるオトガイ孔という穴から外に出て、下の前歯あたりの歯ぐきを支配しています。
下顎孔とオトガイ孔は、神経繊維が出入りしているため、肉眼でもはっきり見ることができます。
太い神経は骨の内部で分枝し、下の歯の半分や歯ぐき、唇、舌も支配しています。
左右で別々の下歯槽神経が走行しているため、右側の神経を麻痺させると、右側から分岐している範囲すべてが麻痺します。
具体的には、右側半分の歯、一部の歯ぐき、右側半分の舌が麻痺します。
この神経は感覚性の神経であり、運動性の神経繊維は含まれていないため、麻痺されるのは感覚だけで、顔の形が変わることはありません。
伝達麻酔はかなり強力な麻酔で、通常は使用されませんが、どうしても麻酔が効かない場合には行われることがあります。
超音波骨削り器による
最小限の侵襲
当院では三次元的な超音波振動を利用した骨切削器具を用いた低侵襲骨外科手術法を採用しています。
この方法では、従来の手法と比較して、骨切削の長さや深さを正確にコントロールすることができるため、神経や血管などの軟組織を損傷せずに、安全に骨のみを切削することが可能です。
当院では患者さんに優しく、ダメージが少ない低侵襲治療を心がけており、超音波骨削り器もその一環となっています。
超音波骨削り器の主な特徴
- 無痛である
- 腫れが起こらない
- 出血がない
- 治癒が早い
- 傷や組織欠損が小さい
- 歯の保存が可能である
従来の回転器具と比較して、軟組織を損傷せず、骨へのダメージも少なく、正確に最小限の骨を安全に削ることができるため、より良い治療が可能です。
低侵襲治療
低侵襲治療とは、患者さんの体に優しく、ダメージが少ない治療です。
超音波骨削り器による抜歯の主な利点
- 頬側の骨壁が薄い症例でも歯槽骨を保護することができる
- 骨性癒着の抜歯で歯根表面を切削し、抜歯が可能
- 菲薄な骨でも破損せず、高い精度の骨切りが可能
- 骨切り線が曲線を描く場合でも、容易に骨切りができる
- 血管、神経、粘膜など軟組織の損傷が少ない
- 厚い皮質骨の切断には長時間がかかる
- 狭い術野で硬組織の削除が可能
- 出血のコントロールが可能
超音波骨削り器による繊細な施術は、口腔外科手術などにおいて、施術の安全性と的確な骨切削を実現し、患者さんに優しい低侵襲治療が可能です。
患者さんにとって最善の治療を提供することができます。
親知らず
抜歯の流れ
- 神経や血管の位置をレントゲンで確認
- まずはレントゲン撮影を行い、神経や血管の位置、また親知らずの根の状態を確認します。抜歯の安全性を最優先に確保するため、事前に親知らずの状態を把握してから抜歯を行います。
- 表面麻酔と注射麻酔で痛みを最小限に抑える
- 親知らずを抜くときにはもちろんのこと、麻酔の際にも痛みを伴わないように、当院では注射麻酔を行う前に表面麻酔を施します。注射麻酔では出来るだけ圧をかけないように電動麻酔器を使用することで、麻酔の痛みを最小限に留めることが可能です。
- 親知らずを抜歯する
- 親知らず抜歯の際には専用の器具を使用して、歯と骨の間にある歯根膜(しこんまく)と呼ばれるクッションのようなものから親知らずを引き離します。 抜歯の際には麻酔が効いているため、基本的に痛みはありません。ただし、万が一痛みが出るような場合には、合図を送っていただき、麻酔を追加します。骨の奥に埋まっている親知らずの場合は、周囲の骨を削ったり、歯を小さく割ってから抜歯するため、頑張ってお口を開いておいていただきます。
- 糸で縫って傷口を小さくする
- 親知らずを抜いた後は、抜いた部分にできる穴が早く塞がるよう、かさぶたの形成を促します。この時、傷口を縫って小さくしたり、穴に止血用のスポンジを入れることで、かさぶたができやすいようにする場合があります。また、麻酔の効果は約1~3時間で切れるため、痛みが心配な方は、麻酔が切れる前に痛み止めを飲むように注意していただきます。
- ガーゼで圧迫止血する
- 出血を早く止めるため、ガーゼで圧迫止血を行うことで痛みや腫れを最小限に抑えます。この時、30〜60分ほどガーゼを強く噛んでもらい、かさぶたが早く出来るように止血を行います。血液をサラサラにする薬を飲んでいる方は血が止まりにくいため、長めにガーゼを噛むように注意していただきます。
- 翌日の消毒
- 出血や感染がないかを翌日に確認し、消毒を行います。痛みや腫れの状態により、薬を増やしたり、種類を変えることで早く回復するように調整いたします。
- 1週間後に糸を取る
- 抜歯から1週間ほど経過すると、親知らずを抜いた部分の傷口が塞がってくるため、糸を取る処置を行います。その後、3~4週間で傷口は完全にふさがり、骨は3~6か月ほどで回復します。 (※ただし、回復の早さには個人差があり、人によって異なります)
ドライソケットに
なった場合の対処法
抜歯を行って1週間が経っても痛みが激しい場合はまず、ドライソケットの可能性を疑います。
ドライソケットとは、血液のかたまりがうがいなどによって流れてしまい、抜歯した穴にかさぶたができずに骨が露出してしまっている状態を意味します。
ドライソケットになっている場合は、麻酔をしてから意図的に出血させ、かさぶたを作りなおす処置を行うか、薬を飲んで経過を見守るのことが一般的です。